音楽用語「モデラート」の歴史

ブルグミュラー練習曲

音楽用語のModerato(モデラート)は曲の速さ(テンポ)を表す用語です。どのくらいの速さかというと、「中くらいの速さ」。でも、「中くらい」ってどのくらいなのでしょう?

 

ある人は♩=76~96くらいといいます。

でも、上の楽譜を見てください。ブルグミュラーの「やさしい花」の冒頭に Moderato と書いていますが、152になっています。それって、2倍速です。全然、「やさしくない」速さです。

 

確かに、モデラートは「標準音楽辞典」では「『中庸の速度で』の意味。」と書かれています。でも、もっと昔の音楽辞典、セバスチャン・ド・ブロサール(1655-1730)が作ったとされる音楽辞典では以下のように書かれています。

 

MODERATO

veut dire, Avec MODERATION, defcretion, sagelle, ny trop fprt, ny trop doux, ny trop vite, ny trop lentement

 

これを和訳しますと、

「適度に、節度を持って、賢明に、あまり強くもなく、あまり弱くもなく、あまり速くもなく、あまり遅くもなく。」

です。

 

なんというあいまいさ。これをメトロノームに置き換えることなど、そもそも無理ではないかと思うわけです。

 

メトロノームは、1816年に特許が出た発明品で、ベートーヴェン(1770-1827)が愛用したことは有名です。ブルグミュラー(1806-1874)が生まれたときにはすでに出回っていました。これはベートーヴェンにも言えることですが、当時のメトロノームの精度があまりよくなく、個体差があり、数値に信ぴょう性が欠けると言われています。「やさしい花」が速すぎる、と思ってしまうのは、そのせいではないかとも言われています。

 

そういうとき、本来の「モデラート」のあいまいさに乗っかって、芸術作品として楽しむことも大切なのではないかと思います。