無伴奏チェロ組曲

バッハの無伴奏チェロ組曲は長い間、「練習曲」という扱いでしたが、カザルスは人前で演奏しました。それまで、そんなことをしたチェロ奏者はいなかったので、カザルスが演奏したときは一様に驚いたというエピソードが残っています。カザルスについての本を読んでいるのですが、そのなかのエピソードをひとつご紹介します。ピアニストのバウアーが語ったエピソ-ドで、カザルスがスペインでバッハの組曲を演奏したときのエピソードです。

「カザルスの演奏するバッハを聴いているときのこと、舞台係が涙で頬をぬらしているのに気が付いた。

『あの曲をつくったのはヴェルディにちがいないね』そのスペイン人はいった。

『そうだね』とバウアーは、舞台係をがっかりさせたくなかったのでいった。『プログラムに書いてなかったかな?』

『私は字が読めないんだ』と舞台係はいった。『でもヴェルディだってことはわかる。泣けてくるのはヴェルディの音楽だけだから』」(ちくま文庫より)

このエピソードをどうとらえるかは人それぞれだと思いますが、私が思うのは、どれだけ偉大な作曲家か、クラシック音楽家の名前を知らなくても、知識がなくても、人の心をうつのが本当の名曲であり、名演ではないかということです。